いつもゆずの木ホームクリニックをご利用いただき、誠にありがとうございます。当院では、がんをはじめとする病気にともなう痛みや息苦しさをやわらげる「緩和ケア」を、入院されなくてもご自宅で受けていただける体制を整えています。その中心となる医療機器のひとつが、携帯型の精密輸液ポンプ「クーデックエイミーPCA」です。本記事では、この機器を用いたご自宅での症状緩和について、患者さま・ご家族にもわかりやすくご紹介します。
「家に帰ったら、痛みは我慢するしかない」――そんなことはありません
「病院では点滴で痛みを抑えてもらえたけれど、家に帰ったら同じようにはいかないのでは」「夜中に痛みが強くなったら、朝まで耐えるしかないのでは」――退院のお話が出たとき、そうした不安を口にされる方は少なくありません。息苦しさについても同じで、「呼吸が苦しくなったとき、家では何もしてあげられないのでは」と心配されるご家族に、私たちは何度もお会いしてきました。
けれども実際には、病院で使われている痛み止めや息苦しさをやわらげるお薬の多くは、ご自宅でもそのまま続けることができます。飲み薬が飲みにくくなった方、貼り薬では追いつかなくなった方でも、小さなポンプを使うことで、24時間安定した症状緩和を受けながら、住み慣れたご自宅で過ごすことができます。
ご自宅での症状緩和のしくみ ― 持続皮下注射とPCA
【図1】皮ふの下に留置した細い管から、超小型マイクロポンプを装着した小さな本体がお薬を24時間送り続けます
おなかや胸、腕などの皮ふのすぐ下に、細い留置針を1本置かせていただきます。血管に入れる点滴とちがって血管を探す必要がなく、刺すときの痛みもごくわずかです。この管に細いチューブでポンプをつなぎ、痛み止めなどのお薬を、1時間あたり0.1mLといったごく少量ずつ、24時間休みなく送り続けます。眠っているあいだも、お薬が途切れることはありません。
針を留置する場所は、通常3日〜1週間ほどで訪問看護師が交換します。食事、トイレ、入浴、お散歩といったふだんの生活は、そのまま続けていただけます。
「ポンプ」と聞くと、点滴スタンドに吊るす大きな機械を思い浮かべる方が多いかもしれません。けれどもクーデックエイミーPCAで薬液を送り出しているのは、10mm×10mm×2mmという超小型のマイクロポンプです。この小さな使い捨てのポンプを、手のひらに収まる本体(ドライブユニット/約140g)に装着して使います。小さなポーチに入れてしまえば、ご来客のときもお出かけのときも、外からはポンプを使っているとは気づかれにくいつくりです。
痛みが強くなったときは、ボタンをひと押し
【図2】ベースの持続投与に加え、つらいときはボタンで追加投与(レスキュー)ができます
このポンプの大きな特徴が「PCA(ピー・シー・エー/自己調節鎮痛法)」です。基本となる持続投与(ベース)に加えて、痛みや息苦しさが強くなったときに、患者さんご自身やご家族がボタンを押すことで、あらかじめ医師が決めた量のお薬を追加で投与できます(レスキュー)。
「看護師さんを呼ぶほどではないけれど、つらい」――そんなときに、待たずに自分で対処できることが、この方法のいちばんの安心です。押しすぎて量が多くなりすぎることのないよう、次に押せるまでの待ち時間(ロックアウト時間)があらかじめ設定されていますので、ご本人やご家族が「押しすぎたのでは」と心配される必要はありません。
いつ、何回ボタンが押されたかは、すべて記録に残ります。当院ではその記録をもとに、「夜間に集中しているので、夜のベース量を少し増やしましょう」といった調整を行い、より穏やかに過ごしていただけるようお薬を組み立てていきます。
クーデックエイミーPCAの特徴
- 本体(ドライブユニット)は約140g・48×27×123mmと小型軽量。小さなポーチに入れて肩から下げられます
- お薬は50mL・100mL・300mLのバッグから選べます。当院では100mLのバッグを使うことが多く、交換の回数を減らせます
- 流量は0.1〜30.0mL/hを0.1mL刻みで設定でき、ごく少量から高用量まで幅広く対応できます
- レスキューボタンはワイヤレス(Bluetooth・約2mまで)。ベッドサイドの手元に置いておけます
- 投与状況やレスキューの回数は専用スマートフォンアプリで確認でき、訪問看護師・薬剤師とも共有しやすくなっています
- 薬液を送り出すのは、わずか10mm×10mm×2mmの超小型マイクロポンプ。使い捨てのため、ご家庭での細かなお手入れは必要ありません
- 点滴スタンドに吊るすような大きな機械は要りません。ポーチに収めてしまえば、外からはポンプを使っているとは気づかれにくい大きさです
【図3】小さなポーチに入れて持ち運べるため、ふだんの暮らしを続けられます
これまでのシリンジポンプ(TE-362)との違い
在宅での疼痛管理では、これまで「テルフュージョン小型シリンジポンプ TE-362」などのシリンジ式ポンプが多く使われてきました。実績があり信頼できる機器ですが、5mL・10mLの小さなシリンジ専用という設計上、薬液がなくなるたびに交換が必要になります。
【図4】薬液の容量のちがい。100mLのバッグなら、交換の回数を大きく減らせます
| くらべてみると | テルフュージョン小型シリンジポンプ TE-362 | クーデックエイミーPCA |
|---|---|---|
| お薬の入れ物 | 5mL・10mLの専用シリンジ | 50mL・100mL・300mLのバッグ 当院では100mLが中心です |
| 薬液の交換 | 容量が小さいため、数時間〜2〜3日ごとに交換が必要。そのつど訪問が必要になります | 同じ流量ならもちは約10倍。2〜3日ごとの交換に追われることがありません |
| お薬の量が多い方 | 量が増えるほど交換が頻回になり、1日に何度も訪問が必要になることも | 大容量のため、高用量のオピオイドでも余裕をもって対応できます |
| 流量の設定 | ごく少量の持続投与に適した設計 | 0.1〜30.0mL/hを0.1mL刻みで設定。少量から多めの投与まで対応 |
| 持ち運びやすさ | シリンジと本体をポーチに入れて携行します | 本体約140gの手のひらサイズ。薬液を送るのは10mm角の超小型マイクロポンプで、ポーチに入れれば外からポンプとわかりにくい |
| レスキューボタン | 本体につないだPCAスイッチ(有線) | ワイヤレス(Bluetooth・約2mまで)。コードが体にまとわりつきません |
| 記録の確認 | 本体の画面と近距離無線(NFC)で履歴を確認 | スマートフォンアプリで投与状況・レスキュー回数を確認でき、多職種で共有しやすい |
この差は、お薬の量が増えてきたときにはっきりします。たとえば1日に30mLの薬液が必要な方の場合、10mLのシリンジでは1日に3回の交換が必要ですが、100mLのバッグなら3日以上もちます。「夜中に薬が切れそう」と慌てることが減り、ご家族の見守りの負担も、訪問の回数も抑えることができます。
※ 実際の交換間隔は、お薬の種類・濃度・流量・薬液の安定性などによって異なります。おひとりおひとりの状態に合わせて担当医が設計し、訪問看護師とともに管理いたします。TE-362も、少量の投与や短期間の使用では扱いやすい優れた機器です。当院では患者さまの状況に応じて機器を選択しています。
息苦しさ(呼吸困難)にも使えます
「痛み止めのポンプ」と思われがちですが、同じしくみは息苦しさをやわらげる目的でも使えます。少量のモルヒネなどのオピオイドには、呼吸のつらさをやわらげる働きがあることが分かっており、緩和ケアでは広く用いられています。不安が強いときにはそれをやわらげるお薬を、吐き気が強いときには吐き気止めを、同じ1本の管から一緒に投与することもできます。
在宅酸素療法との併用もできます。「息が苦しくなったらどうしよう」という不安そのものが、呼吸をさらに苦しくさせてしまうことがあります。手元にボタンがあり、押せば数分でやわらぐ――その安心が悪循環を断ち切ってくれることは、けっして少なくありません。
医療用麻薬について、よくいただくご心配
「麻薬を使うと、中毒になりませんか」
痛みや息苦しさの治療として適切に使うかぎり、依存症になることはほとんどありません。世界中の緩和ケアで標準的に使われているお薬です。
「使い始めると、寿命が縮むのでは」
そのようなことはありません。むしろ痛みや息苦しさがやわらぐことで、食事や睡眠がとれるようになり、体力を保ちやすくなる方が多くいらっしゃいます。
「最後の手段なのでは」
いいえ。つらさがあるときに、早い段階から使うお薬です。症状が落ち着けば減らすことも、やめることもできます。
ご自宅での療養を、あきらめないでください
「これ以上、家族に迷惑をかけられない」「苦しむ姿を家族に見せたくない」――そう思って、ご自宅で過ごすことをあきらめかけている方に、お伝えしたいことがあります。
痛みや息苦しさは、我慢して乗り切るものではありません。適切なお薬と機器を使えば、ご自宅でも病院と変わらない症状緩和を受けることができます。住み慣れた部屋のにおい、いつもの布団、ご家族やペットの気配――そうした当たり前のものが、つらさの感じ方そのものを変えていくことを、私たちは日々の訪問のなかで感じています。
当院では、医師・看護師が24時間365日連絡を受けられる体制をとっています。夜中に症状が強くなったときも、まずはお電話ください。お電話でのお薬の調整、ポンプの設定変更、必要に応じて往診で対応します。「こんなことで呼んでもいいのだろうか」と、ためらわれる必要はありません。どうぞ一人で、ご家族だけで抱え込まないでください。
ゆずの木ホームクリニック スタッフ一同
導入をご検討の方へ
導入にあたって、ご家庭で特別な準備をしていただく必要はありません。現在ほかの病院に通院中・入院中の方も、退院前のカンファレンスの段階からご相談いただけます。訪問看護ステーション・保険薬局と連携して機器とお薬を手配し、ご自宅で使い方をご説明します。ご家族への操作のご説明も、納得いただけるまで何度でも行います。費用は医療保険の対象です(お薬の内容や医療費の負担割合により異なります)。
「まだ痛みはそれほどでもないけれど、これから先が不安」という段階でのご相談も歓迎します。備えがあることそのものが、安心につながります。
お問い合わせ
| クリニック名 | ゆずの木ホームクリニック |
| 所在地 | 〒385-0021 長野県佐久市長土呂806番地5 |
| 代表電話 | 050-1809-0731 |
| 在宅医療専用ダイアル | 0267-74-1018 |
| 受付時間 | 月〜水・金 9:00〜12:00/14:00〜17:00 木・土 9:00〜12:00(土は第2・第4のみ) 日祝休診 |
出典:大研医器株式会社「クーデック エイミーPCA」製品情報、エア・ウォーター・メディカル株式会社 製品情報(本体寸法・質量・流量設定範囲)、テルモ株式会社 ニュースリリース「テルフュージョン小型シリンジポンプ『TE-362』を発売」(2021年12月22日)および同製品添付文書、国立がん研究センター中央病院 緩和ケアセンター「PCAポンプ」資料。本記事は患者さま・ご家族へのご案内を目的として、ゆずの木ホームクリニックが作成したものです。記載の数値は製品の一般的な仕様であり、実際の設定・運用はおひとりおひとりの状態に応じて医師が判断します。